いつもあの人は連理の榊の側に居る
まるで親しげに会話をしているかのように・・・





「泰明―!!」

姿を見つけ、思わずその名前を呼びながら手を振る。
ゆっくり目を開けてこっちを見てくれる、ただそれだけの事が嬉しい。

「・・・か、どうした。」

「・・・・・・」

走ってきた所為で自然と息があがってる。
ちょっと待ってと言うように手の平を泰明に向けその間に呼吸を整える。
泰明はあたしがそうしている間もいつもと代わらぬ顔でこっちを見ている。

まるで、幼い子供のような無垢な瞳で・・・。

思わずその目に吸い込まれるようにじっと見ていたら、泰明が口を開いた。

「何か用事があったのではないのか?」

「あ・・・うん!」

いけないいけない、これじゃぁ何の為に仕事を抜けてきたのか分からないじゃない。
私は折れないように大切に丸めておいたある物を泰明の前に差し出した。

「・・・何だ。」

「紙だよ。」

「紙・・・だと?」

「うん。この間泰明いい紙が無いって言ってたでしょ?だから・・・」

チラリと泰明の顔を覗き見るけど・・・こういう時の泰明の表情って全然変わらないんだよね。
いいのか悪いのか・・・ちょっと判断つきにくい。

「・・・もらおう。」

「本当?」

「あぁ・・・この様な紙を私は見た事がない。」

丸めてあった紙を広げてじっと見つめる泰明の目は・・・どこか、嬉しそうに細められている気がした。

「喜んでくれて良かった・・・一応お祝いにって思ったから・・・」

「祝い・・・何だそれは。」

「だって9月14日は泰明の生まれた日なんでしょう?」

「・・・それは人が生まれた日を意味するものか?」

「うん。」

「ならばこれは受け取れない。」

元のように紙を丸めて泰明はそれを私の前に差し出した。
今まで喜んでいたのに何故突然返されなければいけないのか・・・それが分からずそのまま立ち去ろうとする泰明の袖を掴んだ。

「何で?どうして受け取れないの!?」

「・・・私は、人ではない。だから私がそれを今日受け取る理由がない。」

「お祝いが嫌なの?」

「そうではない。お前が言う“祝い”を受ける理由が私にはないのだ。」

そう言う泰明の顔が何処と泣く寂しげに見えて・・・私は袖を掴んでいた手を離して、そのまま泰明の手にそっと触れた。

「何だ。」

「泰明の手は冷たいね。」

「・・・。」

突然何を言い出すのかって顔であたしを見ている泰明の目は・・・迷子の子供みたいに不安げで、どうしてもその曇りを晴らしてあげたくなる。

「手の冷たい人は心が温かい人だって・・・私の母さんが良く言ってた。」

「・・・温かい?」

「うん。だから泰明はちゃんと生まれでた・・・私と同じ人間だよ。」

出来る限りの笑顔を作りながら泰明の大きな手を、機織りでボロボロになった両手でギュッと握る。

「私が・・・お前と同じ、だと言うのか。」

「うん。泰明がどんな風に育ったのか分からないけど、でも・・・晴明様が教えてくれたの。泰明の生まれた日は9月14日だって。」

「お師匠が?」

「うん。それでお祝いには何が良いですかって聞いたら『紙』がいいって教えてくれたの。」

「・・・そうか。」

少し穏やかな表情になったのを見届けてから手を解くと、一度は返された紙をもう一度泰明に差し出した。

「お祝い、受け取ってくれる?」

不安半分期待半分・・・ドキドキしながら紙を持った手を更に泰明に近づけ、目を閉じる。
やがて手に乗っていた紙の重みが無くなったのに気付いて顔を上げると、口元をほころばせた泰明が目の前にいた。

「有難く頂こう、。」

「泰明・・・」

「約束する。この紙を一番初めに使うのは・・・お前への文を手向ける為だという事を。」

「・・・うん!」

嬉しくて零れそうになる涙をグッと堪えて、私はその足で仕事場に戻った。










可愛らしい花が添えられた淡香の文が届いたのは、それから2、3日後の事。

差出人は勿論・・・・・・安倍泰明





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★ Happy Birthday ★

安倍泰明

意外な人物のお誕生日祝い、一日遅れとなってしまいましたが『遥かなる時空の中で』の安倍泰明さんですv
一体お幾つなのかは分かりませんが・・・(苦笑)
昨日不意に思い浮かんだ話なので文も短く、泰明の口調も微妙です(TT)
それでも1万hitのアンケートで読んでみたいOthersの話で2位になっていたのを思い出して書いてみました。
でも引越しで資料が本の山に埋もれているので、泰明の好きな紙を思い出すのが大変でした。
何はともあれ、初の泰明ドリームです!
1万hitアンケートで遥かに一票入れてくれた皆様、お楽しみ頂けましたでしょうか!?